認知症になった親のお金は使える? FP小井手 美奈子

別居している母が認知症になり一人暮らしが不安で、有料老人ホームへ入居してもらえればと思っています。入居にはまとまったお金が必要なので、母の預金を引き出したいのですが、通帳と印鑑を銀行へ行っても引き出せませんよね?

そんな質問をいただきました。ではこのような場合どうすればいいのでしょう?

お母様が認知症と診断されている場合、通帳と印鑑があっても金融機関は預金の引き出しに応じない可能性があります。仮にご本人が同行しても同じで、契約ごともできません。そのため、お母様に成年後見人を立てて、預金の引き出しと有料老人ホームの入居契約を代理にしてもらう必要があります。

大事な家族である親には、いつまでも元気でいてほしいものですが、急な病気やケガで親が入院してしまう事態に直面してしまう場合もあります。そのときに必要となるのが、入院費などのお金の用意です。入院費のほかにも入院で必要となる物品の買い物もあり、親の銀行口座からお金を下ろす必要があるかもしれません。 そんなとき、親子とはいえ子どもが勝手に親の銀行口座からお金を下ろせるのだろうかと心配になりますよね。ATMからお金を下ろす方法であれば、親から暗証番号を伝えられた上での親の意思による引き出しということになり問題はありません。 暗証番号がわからない。通帳しかないなどの場合はどうしたらよいでしょう?

このページでは、認知症の親の預金の引き出し方法や、成年後見制度の活用法などについて解説します。 FP小井手 美奈子

 

①本人の意思であれば家族が引き出すこともできる

預金の引き出しには、「引き出したい」という本人の意思が必要です。本人に頼まれたのであれば、暗証番号とキャッシュカードでATMから預金を引き出すことができます。また、本人が委任状を作成できれば、通帳と印鑑を持参して窓口で引き出すことも可能です。

ただし、ATM利用の際には引き出し限度額の注意が必要です。限度額は銀行毎に設定されており、50万円であったり100万円であったりします。キャッシュカードなのかICキャッシュカードなのか、あるいは身体認証があるICキャッシュカードなのか、ないICキャッシュカードなのかによっても限度額が変わります。また、利用銀行のATMからなのか、提携金融機関やコンビニのATMから引き出すのかによって上限額が変わる場合もあります。提携金融機関やコンビニ利用の場合には限度額が下がるケースが一般的です。

委任状と本人確認書類を持参
配偶者や親などの代わりに窓口でお金を引き出したいときは、委任状と本人確認書類を持参する必要があります。委任状は金融機関のサイトで簡単にダウンロードできます。本人確認書類とは、運転免許証やパスポート、個人番号カードなどのことをいいます。顔写真のない公的書類の場合は、ほかの本人確認可能な公的書類が追加で必要です。委任状には住所、氏名、支払金額などを記載します。口座名義人である家族の確認書類も必要です。

子どもの場合と、そのほかの家族の場合
とはいえ、未成年である子どもや孫の通帳を親や親権者が管理しているケースは少なくありません。その場合は、親子と証明できる確認書類を提示すれば問題なく手続き可能です。子どもや孫が成人した場合は、代理人届や委任状の提出が必要となります。また、成人となった子どもの新規口座開設には、本人による手続きが必要です。

※委任状の書式などダウンロードが負荷の場合、まずは銀行にお問い合わせください。

ポイント① 家族とはいえ証拠を残しておきたい
親のために親の銀行口座からお金を下ろすのは自然な行為と思えます。しかし、お金にかかわる処理は、後のトラブルを防ぐために慎重に行っておきましょう。金額が大きいときは特に注意が必要です。たとえば、ほかの兄弟がかかった金額を確認したいと申し出たときに説明できるよう、病院などの領収書をしっかり残しておきましょう。1回1回は大した金額でないと思えても、結果的に大きな金額に膨らむという可能性もないわけではありません。

何のためにお金を引き出したかを明らかにできるようにしておくと、親やほかの家族に不信感を抱かせるような無用なトラブルを防げるます。また、自分で立て替えてしまった場合でも、領収書を残しておけば兄弟で分担するときなどに役立ちますね。

しかし、認知症の場合は本人が意思表示をすること自体が難しいこともあり、金融機関は「成年後見制度の利用を勧めてくるでしょう。成年後見制度とは、判断能力が低下した本人に代わって財産を管理したり、適切なサービスを選択し、本人の生活を守るための制度です。

②本人が認知症になった場合は後見人が必要になります

判断能力がない方に代わり預金を引き出すには、裁判所が認めた成年後見人しかできません。お母さまに成年後見人を付けるためには、家庭裁判所に申し立てを行います。
成年後見人には「財産管理」「身上保護」の大きく二つの役割があります。

③後見人は親族がなるもの?

成年後見人となる人に、特別な資格は必要ありません。裁判所が選任した地域住民や、法人が担うケースもあります。しかし、本人にある程度の財産があり「不動産の処分が必要」「親族同士で金銭トラブルを抱えている」「財産が多く契約や権利関係が複雑」といった場合には、専門知識をもつ弁護士司法書士社会福祉士がおすすめです。本人の親族も後見人になれますが、適任であるかどうかは裁判所が判断します。許可しないこともありますし、後見人になれたとしても、正しく後見業務ができているかを監督する「監督人」が付きます。
また、成年後見制度については二つの注意点があります。
●後見人に報酬を支払う必要がある
●後見人が決まるまで一定期間を要する

成年後見人に対して報酬が発生する

弁護士や司法書士など、親族以外の第三者が後見人を受任すると、本人の財産から毎月報酬を支払わなければなりません。家庭裁判所の公開情報によると、成年後見人の報酬の目安は「月額2万円」です。しかし、管理する財産が数千万円以上にも上る場合は、報酬も「月額5~6万円」と高くなります。

後見人が決まるまで数ヶ月が必要!老人ホームにすぐ入所したいとき

後見人の申し立てをしてから、実際に預金を引き出せるようになるまで、およそ3ヶ月程度必要となります。しかし、お母様の状況から、入居を急がなければならない場合もあるでしょう。そのときは、以下の方法で対応することができます。

「今から施設を探す」場合

入居金が高額で、子供が立て替えることが難しい場合もあります。そのときは「入居金0円プラン」のある施設を選ぶことで、初期費用を抑えることができます。また、月々の支払い方法は「振り込み」ではなく「口座引き落とし」ができる施設を探しましょう。引き落とし口座にお母さまの口座を指定すれば、毎月の費用はそこから引き落とされます。

「すでに入居契約が済んでいる」場合

お母さまの口座から老人ホーム側へ直接振り込みができないか、金融機関に相談してみましょう。老人ホームと交わした「入居契約書」を提出し、金融機関が「間違いなく本人のために利用する」という判断に至れば、家族の同意のもと入居金の支払いに応じてくれるかもしれません。 急いで入居が必要な場合は「入居金0円プラン」のある老人ホームを選択すると負担を軽減できます。また、月額費用も「口座引き落とし」ができないか施設に相談してみましょう。

④認知症になる前であれば「任意後見」や「家族信託」という制度もあります

では、親が認知症になる前に、将来の金銭管理を任されていた場合はどうでしょうか。これも口約束であったり委任状では効力がありません。法的に行うためには「任意後見」または「家族信託」という二つの契約方法があります。認知症になる前に、何れかの契約を交わしておくことで、後の財産管理ができるようになります。 詳しくは→ https://souzoku-pro.info/columns/seinenkouken/63/

●任意後見契約
本人に判断能力が無くなった際に、家庭裁判所で認められれば任意後見人として財産管理ができます
●家族信託契約
認知症の有無に関わらず、委任者が本人の代わりに財産管理をすることができます。 

どちらの契約も、判断能力が失われる前に時間をかけて準備するものです。契約内容を考えることも難しいので、弁護士司法書士といった専門家に相談すると良いでしょう。 親が認知症と診断されたとき、事前準備をしておかないと簡単に預金を引き出すことができません。そのときは、本人に成年後見人を立てることになります。

身近に相談できる相手がいなければ、担当のケアマネジャー、地域包括支援センターの窓口、本人の口座がある金融機関など、本人に関わるあらゆる機関や、法律の専門家にも相談してみましょう。

本人や家族にとって、より良い選択ができることを願っております。

このQ&Aに回答した人

小井手 美奈子 (コイデ ミナコ) (1級ファイナンシャルプランニング技能士・CFP®)

<プロフィール> 
S36年4月7日  A型
職歴     銀行勤務9年  証券勤務18年  現在 FPとして様々な案件を解決中!
資格   ファイナンシャルプランナー      証券一種外務員資格  証券二種外務員資格


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    趣味は園芸、愛犬との共同生活、などなど。
    今、一番幸せを感じる時間は、孫達と遊んでいる時と、私を慕ってやまない(?)犬二匹との時間です。

    ~社会人になってまず、銀行に入行し、その後も、ずっと金融の仕事に携わり、私もそろそろ老後を考える歳になってまいりました。
    同世代の方と話をしていると、退職後や老後のお金の話になりますし、自分の子供たちの世代をみていると、年金などの不安要素がいっぱいに感じます。
    よく言われる話ですが、お金には「色」があって、ご自身のご資産を大切に生かすためには、そのご資産をきちんと色分けしてあげる必要があると思います。色分けしたお金を、そのニ-ズにあったところで運用します。
    私も、自分の老後を一緒に考えながら、大好きなお金のはなしや、いちばん必要な保険のはなしをお話ししていきたいと思います。

    座右の銘   辛抱する木に花が咲く

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