認知症予防にはこんにゃく由来グルコシルセラミドが効果的

~植物セラミドでヒト脳内アミロイドβ蓄積抑制を確認~

北海道大学大学院先端生命科学研究院の五十嵐靖之客員教授、門出健次教授、湯山耕平特任准教授らの研究グループは、株式会社ダイセル、北海道情報大学健康情報科学研究センターと共同でヒト介入試験を実施し、植物由来セラミドが脳内アミロイドβペプチド*1(Aβ)蓄積を軽減させることを発見しました。

【ポイント】
・植物セラミド摂取により脳内アミロイドβ蓄積が減少することをヒト介入試験で確認。
・認知症予防目的の機能性食品素材や新薬開発に期待。
我が国では認知症患者数は400万人を超え、そのうちの60%以上を占めるアルツハイマー病の予防法・治療法の開発は喫緊の課題となっています。アルツハイマー病の発症原因の一つは、Aβが脳内に過剰に蓄積することとされており、その蓄積抑制は予防を目的とした先制治療薬や機能性食品素材の開発戦略の一つとなっています。
研究グループはこれまでに、こんにゃく芋から精製した植物由来グルコシルセラミドをアルツハイマー病モデルマウスに経口投与することで、アミロイドβ除去効果をもつ神経細胞由来エクソソーム*2が増加し,脳内アミロイドβ蓄積が減少することを明らかにしてきました。
今回は、ヒトにおける植物セラミドの効果を検証するため高齢健常者を対象に介入試験を実施し、プラセボまたは植物グルコシルセラミドを摂取した両グループにおいて、脳内Aβ蓄積と相関する血中バイオマーカー値を測定したところ,グルコシルセラミド摂取群において摂取前との比較で摂取後に有意な低値を示しました。さらに層別解析を行ったところ、脳内Aβ蓄積が相対的に低めの集団において、グルコシルセラミド摂取群ではプラセボ群より有意に低値を示しました。この研究成果から、植物セラミドはアルツハイマー病の予防・治療への活用が期待されます。本研究成果は、2021年8月30日(月)公開の『薬理と治療』(2021年49巻8号)に掲載されています。なお、本論文は2019年公開のScientific Report(2019年9巻1号)に掲載されたモデル動物を用いた研究成果の続報です。

<こんにゃくセラミドのアミロイドβペプチド蓄積抑制効果>

■背景
アルツハイマー病(AD)は主要な老年期の認知症性疾患であり、現在早急な予防法・治療法の確立が望まれています。AD発症には様々な要因が関与していますが、脳内でのAβ蓄積増加が主な原因と考えられており、脳内Aβレベルを制御することが予防・治療戦略の一つとして有望視されています。
研究グループはこれまでに、植物(こんにゃく芋)由来のグルコシルセラミドをアルツハイマー病モデルマウスに経口投与することで、Aβ除去作用をもつ細胞外小胞エクソソームが脳内で増加し、Aβ濃度が低下し、アミロイド沈着が軽減することを実験で明らかにしてきました。
これらの成果をうけて、このたび、ヒトにおける植物グルコシルセラミド経口摂取の効果を検証するため、北海道大学、株式会社ダイセル及び北海道情報大学の共同研究においてプラセボ対照ランダム化二重盲検試験を実施しました。

■研究手法
試験期間を24週間とし、60歳以上80歳未満の被験者20名(平均70.1歳)をプラセボ食品摂取群10名と被験食品(こんにゃくグルコシルセラミド)摂取群10名に構成し、プラセボ対照ランダム化二重盲検並行群間比較試験を行いました。それぞれの群にプラセボ食品、またはグルコシルセラミド5.4mgを含む被験食品を摂取してもらい、0週、12週、24週目に、脳内Aβアミロイド蓄積レベルをモニター可能な血漿アミロイドβバイオマーカー*3値の測定を実施しました(図1)。
なお、本研究に用いたこんにゃく由来グルコシルセラミドは、皮膚の保湿・バリア機能を高める機能性食品素材として販売している原料で、板こんにゃくの製造時に廃棄される「飛び粉」から抽出製造するサステナブルな原料です。また、グルコシルセラミドは、多くの植物に含まれていますが、小麦胚芽や米ぬかなどに比べ、こんにゃく芋の飛び粉抽出物はセラミド含有量が高いことがわかっています。

<図1:ヒト介入試験の概要>

■研究成果
被験食品群において、0週目(摂取前)との比較で12週目に有意な低値を示しました。さらに層別解析を行ったところ、摂取前の段階で血漿アミロイドβバイオマーカー値が相対的に低めの集団においては、摂取12週後、24週後において被験食品群の変化量がプラセボ食品群より有意に低値を示しました(図2)。今回の結果は、植物グルコシルセラミドの持続的な摂取で脳内Aβ蓄積が軽減できる可能性を示しており、さらにAβアミロイド蓄積の初期段階に対して効果が高いことが示唆されました。

<図2:こんにゃくグルコシルセラミド摂取によるアミロイドβ 蓄積の変化>

■今後への期待
脳内Aß蓄積の抑制はAD予防の有効な戦略とされており、本研究で得られた新たな知見は機能性食品素材や新薬開発に繋がる可能性があります。今後研究グループでは、ヒト介入試験をさらに進め、認知機能分野における機能性素材の開発を推進します。

【論文情報】
論文名:こんにゃく由来グルコシルセラミド摂取による脳内アミロイド蓄積に対する抑制効果の探索的試験 ―プラセボ対照ランダム化二重盲検並行群間比較試験― (Attenuating Effects  of Glucosylceramide Extracted from Konjac on Amyloid β accumulation in the Human Brain – Placebo-controlled, Randomized, Double-blind, Parallel-group Study –)
著者名:江口晃一1, 向井克之1,湯山耕平2,臼杵靖剛1,栗本成敬3,田中藍子3,勝山(鏡)豊代3,西平 順3,門出健次2,五十嵐 靖之2
(1株式会社ダイセル,2北海道大学大学院先端生命科学研究院,3北海道情報大学健康情報科学研究センター)
雑誌名:薬理と治療(2021年49巻8号) (医師・研究者を対象とした論文投稿雑誌)
公表日:日本時間2021年8月30日(月)午前0時

【用語解説】
*1 アミロイドβ ペプチド … アミロイドβ前駆体タンパク質(APP)から切断されて産生される約40アミノ酸からなる生理的ペプチド。アルツハイマー病では、このペプチドの過剰な蓄積がアルツハイマー病発症の引き金と考えられている。
*2 エクソソーム … 様々な種類の細胞から分泌される直径50〜150nm程度の細胞外小胞。特定の分子を包含し、細胞間で受け渡すキャリアーの役割を担う。神経細胞由来エクソソームは表面膜の糖脂質でAβを捕捉しグリア細胞に運搬することでAβ分解を促進させる。
*3  Aβアミロイド血漿バイオマーカー … 免疫沈降-質量分析(IP-MS)法により測定されるAPP669-711/Aβ1-42比とAβ1-40/Aβ1-42比を組み合わせた血漿Aβ 複合バイオマーカー。PET検査に基づく脳アミロイド蓄積レベルと高い相関を示す。

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