京都大学は、高齢者が新たに楽器の練習に取り組むことで、認知機能が向上し、脳活動に変化が見られることを確認したと発表した。同大学大学院総合生存学館 教授の積山薫氏らの研究グループが明らかにした。
研究では、楽器を習ったことがない平均年齢73歳の健常高齢者66人を、鍵盤ハーモニカのグループレッスンを受ける群と受けない群に分け、4カ月後にどのような違いがあるかを調べた。
その結果、鍵盤ハーモニカの訓練を受けた群は、楽器の演奏に直接関係しない言語記憶が向上していることが示唆された。また、簡単な課題をしている時の脳活動を機能的磁気共鳴画像法(fMRI)により測定したところ、より少ない脳活動で同じ成績を出せるようになっており、神経処理の効率化が生じていることが分かった。
さらに、脳の左被殻を起点とした解析では、左被殻と右上側頭回の活動同期性が減少した人ほど、言語記憶が向上していることが示された。これは、神経処理の効率化が認知機能向上の神経基盤であることが示唆される。
楽器の練習が加齢による脳の衰えを抑制するという考えは、一般的に広まっているものの、学術的な裏付けはほとんどされていない。研究チームは、今回の結果はグループレッスンによるため、認知訓練の他に社会的交流の影響も無視できないが、集団による楽器演奏の有効性は確認できたとしている。
なかでも、音楽初心者でも比較的はじめやすい「ピアノ」を例にとって、ピアノがシニア世代にもたらすメリットをご紹介していきます。
メリットその1:脳トレになる
ピアノを演奏する際は、ご存知の通り、手の10本の指がさまざまな動きをしてピアノの鍵盤を鳴らします。また、強弱をつけたり、難しいフレーズを弾きこなしたりする場合には、指で鍵盤へのタッチを変化させて表現します。さらに、左右の手は異なる動きをし、ときには左右の手を交差させて演奏することもあり、動きはさらに複雑化します。
このように、ピアノは指を最大限に使用して演奏するため、脳の言語などを司る「側頭葉」という部分が働き、活性化し、脳細胞が刺激されるのです。
脳トレに特化したピアノの教科書や楽譜が、楽器店やネットショップなどで販売されています。初心者にもやさしい内容のものもあり、ピアノ教室に通うのが億劫な方でも、おうちで手軽に始められそうです。
メリットその2:瞬発力が鍛えられる
ピアノを弾くには、楽譜が必要です。楽譜を見ながら音を出していきますが、初心者の方は、【楽譜を見る→鍵盤を見る→手の位置を確認して鍵盤を鳴らす】という行程をくりかえします。
そうすると、次第に、次の小節の音はなんだったかな?と、前の小節の音を弾きながら楽譜を見るようになり、この一連の動作は、慣れてくると瞬発的に行えるようになります。
スペインバルセロナ大学の研究では、4ヶ月にわたって毎日ピアノのレッスンを受けた13名の被験者は、他のレジャー(エクササイズ、コンピュータのレッスン、絵画のレッスンなど)を受けた別の16名の被験者に比べて、脳の実行機能を測定するテストや、ランダムに散らばる数字を1から順番に線でついなでいくテストなどにおいて、ピアノのレッスン後に改善が見られたと報告しています。
これは、自己を抑制する能力や情報処理スピード能力、また、目標物を見つける能力や運動能力が強化された結果として証明されています。
目が音符を見て、脳が認知し、手に指令を送り、手が動く。早くなればなるほど脳は活性化されます。このような瞬発力は、日常生活にも活かされ、ケガや事故の防止にもつながります。
メリットその3:運動の代わりにもなる
さて、ここまで読んでくださった内容から、ピアノは手と指と目だけを動かしていれば弾けるもの、と思っておられる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ピアノの演奏には、じつに全身の筋肉を使います。高音域や低音域の鍵盤を奏でるための首や腕はもちろんのこと、ペダルをおさえるため足の力も大切です。さらには、頭や上半身は軸をぶらさないように腹筋や背筋、体幹を使ってしっかりと支える…など、まさに全身運動といっても過言ではなのです。
ピアニストともなると、曲や強弱などによって、全身の筋肉を自在にあやつり、脱力させたり、あるいは腰や丹田から力をいれて迫力のある表現をします。
頭と身体を使って、はじめのうちは短時間で疲れが出るかもしれませんが、これも慣れてくると、1時間、1時間半、2時間とほとんど止まらずに練習をつづけることができるようになります。
ウォーキングやテニス、グランドゴルフなどのスポーツを老後の趣味にしている方が多いですが、室内の涼しい環境で身体を軽く動かしながら楽しめる趣味として、ピアノは断然オススメです!
メリットその4:記憶力の向上につながる
ピアノ演奏のレベルが上がってくると、ある程度、旋律や和音を覚える必要のある曲にも出会います。右手の旋律が複雑な動きをしていて、そのあいだ右手の伴奏している左手の音形を完全に覚えてしまって、右手に集中したいときなどです。
脳の側頭葉の内側にある領域「海馬」は、記憶力や空間学習能力に関わる部位です。海馬の体積が大きいほど、記憶力に優れた脳であると言われています。
発表会やボランティア演奏会などで演奏を披露する際には、楽譜を暗譜して挑むと、海馬に良い影響を与えて、記憶力がさらに向上するかもしれません。
メリットその5:音楽には癒し効果がある
「音楽療法」という学問の分野があるように、音楽には、人をリラックスさせたり、活力をわかせる効果があります。記憶障害の方が、音楽を聴くと、その曲にまつわる記憶を思い出すことができたという事例もあり、子どもからご高齢の方まで、音楽によって心身の障害機能の回復や、生活の質の向上が期待できます。
音楽を聴いて心が癒されたり、カラオケや鼻歌を歌って気分が晴れたりした経験があるかと思います。好きな曲をピアノで弾きながら歌うことを目標に、教室に通うシニア層も多くいらっしゃいます。
目標ができると、実現に向かって突き進むことで自然と生活も楽しくなり、有意義な時間を過ごせそうです。
出典 フォニムのライタースタッフ
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