義母が、静かに旅立った。
認知症を患って数年。けれど、その前には、寝たきりになった義父の介護があった。気づけば、私は三十年、二人の介護をしてきた。
結婚した頃の私は、ただの“嫁”だった。人生の先輩である義父母に、頭を下げ、言葉を選びながら過ごす日々。でも、ある日突然、義父が倒れ、長い介護生活が始まった。覚悟なんて、最初はなかった。ただ、目の前のことをこなすうちに、日々は流れ、気づけば、介護が私の「日常」になっていた。
何度も繰り返し同じ話をし、何度も名前を忘れられ、何度も落ち込んだ。
私は、良い嫁だっただろうか。優しい介護者だっただろうか。
いや、きっとそうではなかった。完璧じゃなかった。でも、やりきった。逃げなかった。三十年という重みを、自分の背中に確かに感じている。
義母の最期は、穏やかだった。 何も言わず、逝ってしまった。
今、家の中にはぽっかりと空いた静けさがある。その静けさに、私は戸惑いながらも、少しだけ深呼吸している。
長い長いマラソンのような日々を終え、私はようやく、自分の時間を歩き始めようとしている。

