成年後見制度ってなに?
成年後見制度とは、認知症などにより意思能力が低下・喪失してしまった人に代わり、財産管理・契約手続き等の法律行為や、生活を支えるためのサポートを行う制度です。意思や能力が不十分になってしまうと、預貯金の引き出しや不動産の売却といった財産管理を行うことや、介護施設への入退去手続き、医療機関への入院手続きや、それに伴う費用の支払い、契約行為などを、自分自身で行うことは難しくなります。また、本人が不当な契約を結んでしまったり、悪徳商法に引っかかり無駄な費用を費やし、財産を失ってしまうことがあるかもしれません。成年後見制度は、こうした事態で本人が不利益にならないよう、本人に代わって財産の管理・保護、生活の支援をすることを目的として作られた制度なのです。
成年後見制度には種類がある?
成年後見制度は「法定後見制度」と「任意後見制度」の 2 種類に分けられます。
法定後見制度
「法定後見制度」は、本人の意思能力が既に低下・喪失してしまった場合に、ご家族などが家庭裁判所に申立てをすることにより、後見人を選任してもらう制度です。 法定後見制度は、本人の意思能力により、「後見」「保佐」「補助」の 3 つに分けられます。
①「後見」・・・本人の意思能力が全くない場合
基本的に身の回りのことが何もできない状態を指します。財産管理や契約行為はもちろん、日常的な買い物に至るまで、誰かのサポートを必要とするケースです。
「後見人」に選ばれた人は、財産管理など全ての法律行為に対して、「代理権(本人に代わって、契約などの法律行為を行う権限)」や、「取消権(本人が行った法律行為を取り消すことができる権限)」が与えられます。
②「保佐」・・・本人の意思能力がとても不十分な場合
日常的な生活などは問題なくできるけれど、財産に関する重要な行為(預貯金の引き出し、不動産の売却、自宅の増改築等)については、誰かのサポートを必要とするケースです。 「保佐人」に選ばれた人は、「同意権(本人が行った行為に対して同意する権限)と「取消権」が与えられます。本人が保佐人の同意を得ずに行った行為で、本人にとって不利益になる場合は、この行為を取り消すことができます。保佐人は「代理権」は与えられませんが、必要に応じて家庭裁判所から認められた特定の行為についての「代理権」が与えられることもあります。
③「補助」・・・本人の意思能力が不十分な場合
基本的に問題なく日常生活を送ることができるけれど、財産に関する重要な行為(預貯金の引き出し、不動産の売却、自宅の増改築等)を一人で行うには少し不安があるため、誰かにサポートしてもらった方が良いというケースです。「補助人」に選ばれた人は、保佐人と同様「同意権」「取消権」と、必要に応じて、家庭裁判所から認められた特定の行為についての「代理権」を与えられることがあります。 ※但し、補助人が持つことのできる同意権(取消権)は保佐人に与えられるそれよりも限定されています。
成年後見申立ての流れ
法定後見制度を利用する場合、家庭裁判所に「後見開始の審判」の申立てを行います。 意思能力が低下し被後見人となる人の住所を管轄する家庭裁判所が、申立て先となります。 申立ては誰でもできるわけではなく、本人・配偶者・四親等内の親族・検察官又は市町村長などに限られています。 必要事項 申し立てには「医師の診断書」が必要です。「後見」「保佐」「補助」の 3 つのうち、どの類型になるかを最終的に判断するのは家庭裁判所になるため、医師の診断書は、本人の意思能力の程度を家庭裁判所に示す上で重要な書類となります。 診断書の他、必要書類(住民票や財産目録など、家庭裁判所の HP で公開されています)を揃えたら、郵送又は窓口にて申立ての手続きを行います。 申立て後は、家庭裁判所の調査官が、提出した書類の内容をもとに、申立人や本人、親族等の関係者と面談を行い、意思能力を含め本人の生活・財産状況を確認します。 その調査内容を踏まえて、後見人が選任されるのです。 申立てから選任されるまで、2〜4 ヶ月の期間を要します。事案によってはもっと時間を要する場合もあるでしょう。
任意後見制度
「任意後見制度」は、本人の意思能力があるうちに、将来起こりうる資産凍結問題に備えて、自分の意思で後見人を選定しておくことができる制度です。
依頼をする本人(委任者)と任意後見人になる予定の人(任意後見受任者)は、「任意後見契約」を、「公正証書」により締結します。契約締結にあたって、本人は、将来意思能力が低下・喪失した後の財産管理方法や、介護・医療に係る事務的な手続き内容を自由に決めることができるのです。 しかし、任意後見をスタートさせる時は、家庭裁判所によって必ず「任意後見監督人」が選任されます。 任意後見制度は、家庭裁判所が「任意後見監督人」を選任したときから効力が生じることになるため、利用する際には法定後見制度と同様に、申立ての手続を行う必要があります。
申立ての流れ
任意後見契約締結後、任意後見制度を利用する場合、家庭裁判所に「任意後見監督人選任の審判」の申立てを行います。申立て先は、法定後見人制度と同様、被後見人となる人の住所を管轄する家庭裁判所です。 申立ては誰でもできるわけではなく、本人・配偶者・四親等内の親族・任意後見受任者に限られています。また、本人以外が申立てを行う場合には、原則として本人の同意が必要です。 申立ての際は、「申立事情説明書」や「医師の診断書」「住民票」など、家庭裁判所の HP をで公開されている必要書類を揃えて、郵送又は窓口にて申立て手続きを行います。 その後、家庭裁判所の調査官が、提出した書類の内容をもとに、申立人や本人、親族等の関係者と面談を行い、意思能力を含め本人の生活・財産状況を確認します。 その調査内容を踏まえて、任意後見監督人が選任されます。
成年後見人は誰がなれる?
〈後見人の欠格事由〉
第八百四十七条 次に掲げる者は、後見人となることができない。
一 未成年者
二 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
三 破産者
四 被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族
五 行方の知れない者 これらの事由に当てはまらなければ、基本的に誰でも後見人になる資格があります。
しかし、申立ての際に親族などの「信頼できる人」を後見人の候補者として推薦しても、最終的に「誰を成年後見人として選任するか」を決めるのは家庭裁判所です。必ずしも希望通りの人物が後見人に選任されるとは限りません。 家庭裁判所によって選任される後見人の 8 割近くは、司法書士、弁護士、行政書士といった専門家であり、親族などが選任されるケースはほとんどありません。
成年後見人等(成年後見人、保佐人及び補助人)と本人との関係をみると、配偶者、親、子、兄弟姉妹及びその他親族が成年後見人等に選任されたものが、全体の約 21.8%となっています。 親族以外が成年後見人等に選任されたものは、全体の約 78.2%(前年は約 76.8%)であり、親族が成年後見人等に選任されたものを 4 倍近く上回っています。 s親族以外では、任意後見監督人の場合も同様に、親族等ではなく、第三者(弁護士、司法書士、社会福祉士、税理士等の専門職や法律、福祉に関わる法人など)が選ばれることが多くなっています。
なぜ第三者が後見人に選任されることがあるのかは、成年後見人となった親族が、被後見人の財産を使い込むようなトラブルが多発したことによります。 そのため「不正防止」という観点で、親族が任命されることが少なくなっているようです。特に、被後見人の財産が多額の場合や、後見人の就任に反対する親族がいる場合などは、親族が後見人になることは難しいのが実情です。
成年後見制度のメリットは?
① 財産の使い込みなどを防ぐことができる
意思能力の低下により、自身で財産を管理することができない場合には、同居の親族や身近にいる人が、本人に代わって財産を管理していることが多く、それらの人によって勝手に預貯金が引き出されてしまうことが実際にあるのです。 預貯金を後見人が管理した場合なども、銀行に対して成年後見人になった旨の届出を行うことになり、その届出を行うと、後見人以外の人は預貯金を引き出すことができなくなります。
横領のような事態を防ぎ、厳格に財産を管理をしたい方にとっては、メリットと言えるでしょう。
② 本人が行った不当な契約を取消すことができる
自分でも内容がよくわからないまま不当な契約を締結してしまったり、通販番組等で高額な健康食品などを大量に買い込んでしまうことがあります。
成年後見制度は、こういったトラブルにも対処することができます。 後見人には「取消権」と呼ばれる、本人が行った法律行為を取り消すことができる権限が与えられているため、本人に代わって契約を取り消したり、代金の返還を請求したりすることができるのです。高齢者を標的にした悪質商法による被害が問題視されている今、親御さんがこうした被害に遭わないか心配な場合には、成年後見制度を利用しておくと安心かもしれません。
※任意後見制度には、「取消権」がないため、注意が必要です。
③介護サービスや施設入所等、生活に必要な契約を行うことができる
成年後見人の仕事の大きな特徴として、「身上監護」があります。 「身上監護」とは、意思能力を喪失した本人に代わって、住居確保や生活環境の整備、要介護・要支援の認定申請、介護・福祉施設への入退去に係る手続き、医療・入院に係る手続き、費用の支払い等を行うことです。
身上監護はあくまでも、「本人の健康に配慮し、安心した生活が送れるように生活環境の手配・整備を行うこと」が仕事であるため、後見人が本人に対し、直接介護や看護などをすることなどは含まれていません。 離れて暮らしていてなかなか様子を見に行けない方や、本人の近くに身寄りがおらず不安な方にとっては、財産管理だけでなく生活面のサポートまで受けられる成年後見制度は有効な手段となります。
成年後見制度をめぐるデメリットとは?
①成年後見人は、第三者(弁護士や司法書士など)が任命されるケースがほとんどです。
その場合、たとえ親族であっても財産に手を付けられなくなってしまいます。成年後見人がつく前は、本人に代わって親族がお金を下ろしていたような場合でも、通帳とカードは成年後見人に渡さなければならず、親族はお金を下ろすことができなくなってしまうのです。 親族を後見人としても、後見監督人を選任する必要があり、家族のみでの財産管理ができない事や
任意後見人には必ず、後見人が正しく後見行為を行っているかを監督する役割を持つ、任意後見監督人がつくことになります。(法定後見制度でも、家庭裁判所が必要だと判断した場合にはつきます)
②後見監督人は家庭裁判所によって選任され、後見人に対して、後見事務に関する書類(領収書など)や財産目録、通帳のコピーなどの提出を求めます。本人の生活や財産状況は、全て家庭裁判所に知られることになるのです。そのため、たとえ親族が後見人になったとしたも、実質的に家庭裁判所の管理下に置かれることになります。
③後見人や後見監督人を選定した場合、高額な報酬を支払う必要がある
成年後見制度の利用を開始すると、本人の財産から、毎月(※)後見人に対して報酬を支払う必要があります。報酬の金額は本人の財産額によって異なり、家庭裁判所によって決められます。(※)
管理財産額 月額
1000万円以下 2万円
1000万円 ~ 5000万円 3~4万円
5000万円超 5~6万円
成年後見人等の費用額のめやす(裁判所 HP より)
後見監督人、任意後見監督人の場合も同様です。費用は以下のようになります。
管理財産額 月額
5000万円以下 1~2万円
5000万円超 2万5千円~3万円
成年後見人等の費用額のめやす(裁判所 HP より)
これらの金額以外にも、申立ての際にかかる費用(申立手数料、後見登記手数料、連絡用郵便切手代、医師による鑑定料など)がかかってくるため、経済的な負担が非常に大きくなってしまうのです。
※ 法定後見人の場合。任意後見人の場合、報酬は被後見人との事前の取り決めで指定します。
④基本的に本人が亡くなるまで続くため、途中で利用をやめることができない
成年後見制度は、一度利用を開始すると、本人の意思能力が回復したと認められるような場合でない限り、途中でやめることはできませんが、現在の医療では、認知症の進行は不可逆的であり、意思能力の回復は見込めません。そのため、本人が亡くなるまで上記の報酬・費用を継続的に支払い続けることになります。
⑤あくまでも本人のみの財産保護を目的とした制度であるため、資産の運用や生前贈与などの柔軟な管理ができない
成年後見制度は、あくまでも本人の現有財産の維持・保護を図ることが最大の目的となるため、積極的に財産を運用するような行為は想定されていません。
このような行為には、財産を子や孫の教育資金として使いたいといった本人以外のために使う場合や、財産の株式への投資なども含まれます。基本的に「本人の財産を減らす」ことに繋がる行為は認められません。
意思能力がまだ十分にある場合には、「家族信託」など、他の制度から検討を始めてみても良いかもしれません。
「家族信託」と「成年後見制度」どちらを利用すべきか迷われている方は非常にたくさんいらっしゃいますが、どちらの制度も「できること」が異なりますし、費用にも違いがあります。 それぞれの制度の特徴をきちんと理解した上で、ご家族状況に合った正しい選択をすることが大切です。
「本人の希望通りの財産管理ができるようにしたいのか」 「親の生活のサポート等、安心した生活を送れるようにすることを重視したいのか」など
ご家族が一番叶えたいことは何かを考えた上で、適切な判断ができるようにしましょう。 ぜひ専門家にご相談ください!