オトバンクと関西福祉科学大学の共同研究 シニア世代の新たな脳トレとして活用可能性
オーディオブック書籍ラインナップ数日本一(※)の音声配信サービス「audiobook.jp」を運営する株式会社オトバンクは、関西福祉科学大学 保健医療学部 リハビリテーション学科 重森健太教授、社会医療法人 生長会 ベルピアノ病院 リハビリテーション室と、高齢者の認知症予防トレーニングに関する共同研究を実施しました。65歳以上の要支援高齢者を対象に行なった研究で、標準的な認知トレーニングとして行われる計算課題と運動のデュアルタスクと、オーディオブックと運動のデュアルタスクにおいて、同等の脳血流活性作用がみられました。本件に関する研究は、日本早期認知症学会で発表されたほか、保健医療学雑誌での論文掲載、「第21回日本早期認知症学会」のシンポジウムでも取り上げられました。※日本マーケティングリサーチ機構2021年11月調べ。日本語オーディオブック書籍ラインナップ数調査。
オーディオブックユーザーがデュアルタスクを体験する様子
- ポイント
● 65歳以上の要支援高齢者を対象に、2種類の認知課題(オーディオブック、標準的な認知課題の計算)を用いて、運動中の前頭葉ワーキングメモリ領域の脳血流反応を検討しました。
● 運動のみ、オーディオブック×運動、計算課題×運動の3群の脳血流反応を比較した結果、オーディオブックと計算課題を活用したデュアルタスクは同等の脳血流反応が認められました。
●オーディオブックによるデュアルタスクの有効性が考えられ、認知症予防のトレーニングにおける新たなツールとしても期待できます。
本件に関する特設サイト https://pages.audiobook.jp/lp/audiobook_dualtask/index.html
- 研究背景
・65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症に
認知症とは、脳の病気や障害など様々な原因により、認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態をいいます。(※1)日本国内では、2025年には65 歳以上の高齢者の約 5 人 に 1 人が認知症になると推測されています。(※2)
認知症は 個人レベルの生活の質の低下や介護者の精神的および 肉体的な負担のみならず、社会に与える影響も極めて大きいため、国の方針として「共生」と「予防」(認知症になるのを遅らせる、認知症になっても進行を緩やかにする)の施策を推進されています。
・デュアルタスクの標準認知課題
認知症予防の介入として、運動療法の有効性を示唆する報告は多数存在しており、近年では運動と認知課題を掛け合わせるデュアルタスクの要素を取り入れた介入を行うことで遂行機能が改善するという知見や、前頭葉における脳血流が活性化することが明らかになっています。
一方で、デュアルタスクにおいて、標準的な認知課題とされている計算やしりとりは、バリエーションに限りがあり、慣れてしまうことで前頭葉の活性化がみられなくなるなどの課題がありました。
今回、デュアルタスクの課題のバリエーションを増やすことを目的として、標準的な認知課題(計算)とオーディオブック、それぞれのデュアルタスク中の脳血流反応を比較し、オーディオブックの認知課題としての活用可能性に関する研究を実施いたしました。
※1 厚生労働省ホームページ https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_recog.html
※2平成28年版高齢社会白書(概要版) https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2016/html/gaiyou/s1_2_3.html
- デュアルタスクとは
デュアルタスク(二重課題)とは、「AをしながらBをする」といったように2つの要素に注意を向けることが求められる課題です。
認知症予防のトレーニングの現場で主に取り入れられており、標準的な課題では、歩くなどの軽度な運動に加え、計算やしりとりが用いられています。
- 研究内容
・脳は、加齢すると萎縮していきます。特に、脳の前頭葉は加齢の影響を受けやすく、脳のトレーニングでは前頭葉(意欲をもつことや、計画を立てて行動することに影響します※3)の血流を活性化させることを目指しています。
・今回、関西福祉科学大学とベルピアノ病院との共同で研究を実施。ベルピアノ病院通所リハビリテーションを利用している 65 歳以上の要支援高齢者55名を対象といたしました。(男性 22 名,女性 33 名)
・運動のみ、及び2 種類の認知課題(オーディオブック、標準的な認知課題の計算)を用いて、運動中の前頭葉ワーキングメモリ領域の脳血流反応を検討。
– 運動負荷は、自転車エルゴメーターを使用し、30%と50%の運動強度設定を行いました。
– 認知課題は、2種類を実施。1つは、デュアルタスクとして標準的に活用される計算課題(シリアル7:繰り返し7を引かせる計算を行う)。もう1つは、オーディオブックを用いました。
また、オーディオブックにおいては聴き流してしまうことの予防として、聴いた後に内容を想起いただきました。
・実験は、①認知課題なし ②オーディオブック ③計算課題(シリアル7)の3条件に分けて実施。実験中は、視覚的な情報を遮断するためにアイマスクを装着しました。
・運動のみ、オーディオブック×運動、計算課題×運動の3群の脳血流反応を比較した結果、オーディオブックと計算課題を活用したデュアルタスクに同等の脳血流反応が認められました。
・これにより、「オーディオブック」でも標準的な認知課題同等の効果があることが明らかになりました。
・オーディオブックによるデュアルタスクの有効性が考えられ、認知症予防のトレーニングにおける新たなツールとしても期待できます。
※3 国立長寿医療研究センター https://www.ncgg.go.jp/ri/lab/cgss/department/ep/topics/13.html
- 本件に関連した論文や発表実績
□ 研究成果(学会発表)
1. 中村祐輔、前河知佳、佐伯帆乃香、上田渉、重森健太
運動強度設定の違いがdual-task中の脳血流に及ぼす影響
第21回日本早期認知症学会(2021.05.29)
2. 前河知佳、中村祐輔、佐伯帆乃香、上田渉、重森健太
うつ症状がDual-task中の脳血流に与える影響
第21回日本早期認知症学会(2021.05.29)
3. 重森健太、奥本裕也、佐伯帆乃香,上田渉
Dual-taskに最適な運動強度の検討 ―脳血流反応の視点から―
日本生体医工学会第36回BME on Dementia研究会(2021.05.29)
□ 研究成果(シンポジウム)
テーマ:運動療法の最近の話題
座 長:重森健太
シンポジスト:重森健太、合田明生、中村祐輔、石井秀明
*中村先生の講演でオーディオブックを紹介
□ 研究成果(研究論文)
1. 重森健太、奥本裕也、佐伯帆乃香,上田渉
Dual-taskに最適な運動強度の検討 ―脳血流反応の視点から―
日本生体医工学会BME on Dementia研究会研究報告集pp9-12, 2021
2.中村祐輔、前河知佳、重森健太、佐伯帆乃香,上田渉
運動強度設定の違いがdual-task中の脳血流に及ぼす影響
保健医療学学会誌, 2021
- 日常生活で実践!オーディオブック活用のデュアルタスク(重森教授監修)
オーディオブックを活用したデュアルタスクは、日常の隙間時間で実践できます。
例えば…
・踏み台昇降をしながら
・ウォーキングをしながら
・軽いスクワットをしながら
など息が少しあがる程度の軽い運動とともに、オーディオブックを聴きます。
<ポイント>
① 興味を持てるテーマのオーディオブックを選ぶこと。
聴き流してしまうと効果が出ないため、自分が興味のある作品を選びましょう。
② 自身の集中が高まる速さに、再生速度を調整するのもおすすめです。
③ 聴き流し防止のため、一区切りしたら内容を振り返りましょう。
家族や周りの人に聴いた内容を話してみたり、思い出しながらノートにまとめるなどの方法が
あります。
- 関西福祉科学大学 保健医療学部 リハビリテーション学科 重森健太教授からのコメント
従来、認知症予防トレーニングに使われてきた計算やしりとりなどに比べて、コンテンツの豊富なラジオ等による聴覚刺激は注目を集める一方で効果は明らかにされていませんでした。今回の共同研究結果でオーディオブックが計算課題と同等の効果が得られたことで、趣味の延長線上でも取り入れやすいオーディオブックの効果に今後も注目しています。
重森教授プロフィール
専門分野:地域理学療法学、早期認知症学、トレーニング科学
日本早期認知症学会理事、日本生体医工学会BME on Dementia研究会幹事
有酸素運動が脳に与える影響をあらゆる角度から分析しています。また、認知症の評価に関する研究も長く行っており、認知症を早期の段階で検出できるアプリケーションソフトウェアの開発も行ってきました。著書『地域リハビリテーション学 第2版』(羊土社刊)、『走れば脳は強くなる』(クロスメディア・パブリッシング刊)ほか
- ベルピアノ病院 リハビリテーション室 中村祐輔さんからのコメント
これまでは認知症予防として知的課題を選択する時に、計算課題やしりとり等を取り入れていましたが、知的課題の選択が似たり寄ったりとなる傾向がありました。豊富な本が聴けるオーディオブックでは、その問題が解決できると思います。共同研究結果を踏まえて、ベルピアノ病院の通所リハビリテーションセンターでは、2022年4月から認知症予防のツールとして、65歳以上の要支援高齢者に対して運動課題に加えてオーディオブックを取り入れました。オーディオブックが認知症予防分野においての新たな選択肢の一つとなる事を期待しています。
- オトバンク代表取締役会長 上田渉のコメント
オトバンクを創業したきっかけに、緑内障で失明した祖父の存在がありました。
そのため、「本を聞く」文化の創出を目指してオーディオブックサービスを立ち上げましたが、今回、オーディオブックの新たな可能性が見出されたということを、非常に嬉しく思います。
医療・健康分野においても、オーディオブックが少しでもお役に立てるよう、今後も研究に協力してまいります。
- 今後の展開
オトバンクは、今後もオーディオブックを活用した認知症予防に関して長期的な研究を行い、音声を活用した社会課題の解決に取り組んでまいります。
■オーディオブックとは
オーディオブックとは、ナレーターや声優が本を朗読した「聴く本」です。耳だけで読書を楽しめるため、文字を読むのが難しい方のほか、ランニング中、電車や車での移動時間、家事の最中など、生活のあらゆるシーンで「ながら読書」を楽しめます。
■audiobook.jp(オーディオブックドットジェイピー)
株式会社オトバンクが運営する、日本一のオーディオブック書籍ラインナップ数を配信する音声配信サービスです。2007年より配信を開始した「FeBe」からリニューアルし、2018年3月よりサービスを開始。オーディオブックのカテゴリー普及に向けてプラットフォームの拡大を目指します。 2021年に累計会員数が200万人を突破。 https://audiobook.jp/
【サービス概要】
・サービス名称:「audiobook.jp」
・サイトURL:https://audiobook.jp/
・App Storeページ:https://app.audiobook.jp/ios
・Google Playページ:https://app.audiobook.jp/android
・料金体系:
聴き放題プランは、月額880円(税込)。入会から2週間は無料でご利用いただけます。
個別購入は作品ごとの購入が可能。
(※単行本書籍とおよそ同価格帯(1,200円~1,500円)での配信が中心。)
■株式会社オトバンク(本社:東京都文京区、代表取締役社長:久保田裕也)
音声コンテンツを中心とした事業を展開し、「聞き入る文化の創造」「目が不自由な人へのバリアフリー」「出版文化の振興」の達成を目指している、日本最大級の配信数を誇るオーディオブックカンパニーです。500社以上の出版社様と提携し、主な事業として、日本最大級のオーディオブック配信サービス「audiobook.jp」でのオーディオブック販売をはじめ、オンラインブックガイド「新刊JP」(http://sinkan.jp/)を中心とした書籍プロモーション事業も行っています。http://www.otobank.co.jp/