口には「食べる」、「話す」、「表情を作る」など様々な機能がありますが、その中でも「食べる」ことは、栄養摂取など、生命維持に重要な役割を果たすとともに、食事を楽しむなど、人々の豊かな生活に欠かすことのできない機能です。近年、高齢者の口腔機能と身体機能の調査研究において、オーラルフレイル(お口のささいな衰え)という概念が提唱されました。オーラルフレイルの状態を放置すると、4年後のフレイル、サルコペニア、要介護リスクがそれぞれ約2倍となることが報告(※)されており、注目を集めております。また、経済財政運営と改革の基本方針2022(いわゆる骨太の方針)においては、全身の健康と口腔の健康に関する科学的根拠の集積と国民への適切な情報提供、生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)の具体的な検討、オーラルフレイル対策・疾病の重症化予防につながる歯科専門職による口腔健康管理の充実などが示され、口腔機能維持の重要性に対する認識が高まっております。また、食文化の変化から軟食化が進むことで噛む回数が減る「噛む離れ」が進んでいると言われており、様々な世代における咀嚼能力の低下について専門家が警鐘をならしております。
当社は「食べる」機能維持の一助として、義歯の製作などの歯科診療や保健指導の際に手軽に咀嚼状態をチェックすることが可能なツールになる「キシリトール咀嚼チェックガム」を開発し、2004年より歯科医院専用商品として販売してまいりました。噛むことに関する社会的関心の高まりにより、咀嚼能力を簡易的に評価するツールのひとつとして本製品に注目が集まっております。
一方、本製品を使用した咀嚼能力の評価は、噛み終わったガムの色を①「専用の機器による色彩の測定」②「カラーチャートを目視で比較する」の2つの方法があり、一般的に使用される目視による評価は、評価者の主観が大きく影響し、評価結果にバラつきが発生するため、手軽で客観的な評価が可能な技術の開発が求められておりました。
そこで、本製品の開発に関わった東京医科歯科大学高齢者歯科学分野監修のもと、スマートフォンなどのカメラで簡単に咀嚼能力を確認できる評価手法を、AIによる画像・データ分析に強みを持つ株式会社AIoTクラウド様と共同で開発し「咀嚼チェックアプリ」として運用をスタートいたします。
キシリトール咀嚼チェックガムと咀嚼チェックアプリが、咀嚼に対する関心をもつきっかけとなり、日常生活から噛むトレーニングを取り入れていただくことで、人生100年時代のwell-beingな生活に貢献してまいります。
※TANAKA, Tomoki, et al. Oral frailty as a risk factor for physical frailty and mortality in community-dwelling elderly. The Journals of Gerontology: Series A, 2018, 73.12: 1661-1667.
【東京医科歯科大学高齢者歯科学分野 水口俊介教授】
日本人の平均寿命は年々延伸し、人生100年時代などと言われています。しかし単に長生きするのが良いわけではなく、健康で活力を保ったまま年を取る、いわゆる健康寿命を延ばすことが必要です。そのためには噛む力を衰えさせず適切に栄養を補給し、フレイル(虚弱)に陥ることを防ぐことが大事です。これがオーラルフレイル予防の理念です。
オーラルフレイルは、社会活動が低下し、精神的に落ち込んだ状態になり、口の健康に注意を払わなくなり、むし歯や歯周病で歯が抜けて噛めなくなり、栄養状態不良に落ちていく状態です。オーラルフレイルを予防するためには毎日の歯磨きに加え、歯科医院において定期的に口腔疾患や咀嚼能力のチェックを受けることが重要です。咀嚼能力は、歯の数だけではなく、顎の関節や筋肉などさまざまな部位の影響を受けるため、総体的にかつ簡便に評価する手法として、咀嚼チェックアプリは今後重要な役割を担うことができると考えております。また、咀嚼能力が及ぼす健康に対する影響について研究を進めるためにも有用な手段であり、研究活動がますます盛んに行われることを期待しています。
- 咀嚼能力とキシリトール咀嚼チェックガム
【咀嚼能力とは】
単なる噛み合わせの力の強さではなく、食べ物を口に入れてから、噛みちぎり、噛み砕き、唾液と混ぜ合わせて、飲み込みに適した食塊(お団子状態)を作るための総合的な能力を意味します。
【キシリトール咀嚼チェックガム】
キシリトール咀嚼チェックガムは、「唾液の量」「咬み合わせの面積」「舌の力」「唇・舌・顎関節の運動機能」など複合的な因子で総合的に咀嚼能力を評価することができます。(株式会社オーラルケアから販売されています)
商品紹介サイト:https://www.oralcare.co.jp/product/post-32.html
商品説明書:https://www.oralcare.co.jp/product/images/soshaku_ss.pdf
【キシリトール咀嚼チェックガムの色が変わるメカニズム】
キシリトール咀嚼チェックガムには、キシリトールの他にクエン酸、未発色色素、青色色素、黄色色素などが含まれています。この未発色色素は酸性環境下では無色、中性・アルカリ性になると赤色に発色します。咀嚼の進行と共に、含有成分が唾液中に流出します。クエン酸の流出によりガム内部のpHが中性・アルカリ性へと変化していくに従って、未発色色素は赤くなっていきます。その結果として、ガム全体が赤色へと変化していきます。
- 咀嚼チェックアプリ
【キシリトール咀嚼チェックガムの使用方法】
①水で5秒間以上ぶくぶくうがいをします。
②ガムを1秒間に1回のペースで60秒間咀嚼します
③噛んだ後の色がどのような色になったかで咀嚼能力を評価します
【咀嚼チェックアプリの使用方法】
①測定用台紙の二次元コードをスマートフォンやタブレットで撮影してWebアプリケーションに接続します
②アプリの画面に従いキシリトール咀嚼チェックガムを噛みます
③噛んだ後のガムを測定用台紙にのせてカメラで撮影します
④ガムの色調を認識して測定結果がスマートフォンやタブレットの画面に表示されます
【東京医科歯科大学高齢者歯科学分野 濵洋平助教】
これまで咀嚼能力を評価するためにたくさんの方法が開発されてきました。その中でキシリトール咀嚼チェックガムには、誰でも簡単に使用できるという優れた点があります。また、成人だけではなく未就学児や総入れ歯の方にも使用できることが確認されており、生涯にわたる咀嚼能力管理に利用することができます。これまで一般の方が使用されるときは、パッケージの「カラーチャート」で視覚的に評価する必要がありました。これも有効な評価法ではありますが、5段階のみの大まかな評価だったり、評価者によっては判断が分かれる可能性があったりと改善点もありました。今回、新たに開発されたアプリケーションを利用することで、誰でも正確に、咀嚼能力を数値化できるようになりました。このアプリケーションを用いることで、歯科医院において治療前後の効果を確認したり、個人において日常的に咀嚼能力を評価し自身の健康管理に役立てたりすることもできます。咀嚼能力を数値化することで、「咀嚼」の重要性に対する意識も高まることでしょう。このアプリケーションが咀嚼能力を高く保ち、その結果QOLの向上、健康増進に寄与することを期待しています。
【株式会社ロッテ中央研究所副所長 関哲哉】
キシリトール咀嚼チェックガムは、当初総入れ歯の適合度をガムを噛むことで簡便に判断できるようにすることを目的として、1997年に東京医科歯科大学(以下、医科歯科大学)と共同で研究・開発が始まりました。入れ歯がその人にフィットしているかを客観的に判断することはとても難しく、一定量の生の米やピーナッツを規定数噛んでもらい、のみ込まずに全て吐き出してもらったものをふるいにかけ、その細かさを測定することで判断するなど大変手間のかかる作業が必要でした。そこで噛むことで色が変化するガムのアイディアにたどり着き、医科歯科大学の先生方と試行錯誤を繰り返し、ようやく2004年に歯科医院専用商品として発売することができました。その後、総入れ歯の評価のみならず、広く一般の方々の咀嚼能力の評価にも応用可能ではないかと思い立ち、引き続き医科歯科大学の先生方にご協力を頂きながら学術データの蓄積を続けてまいりました。今では多くの専門家に咀嚼能力を評価するために使用していただいています。
咀嚼チェックアプリは2017年に部署の壁を越えた有志のプロジェクトチームで開発をスタートさせ、約5年の開発期間を経てこの度運用を開始できることになりました。スマートフォンで写真を撮るだけで咀嚼チェックガムの色の変化の程度(=咀嚼の能力)を簡易に数値として知ることができる仕組みを実現することで、ゆくゆくは体重計や体脂肪率計、血圧計等と同様に私たちの健康を支える新たな指標として広くご活用いただきたいと思っています。まずは歯科医院における咀嚼能力評価および咀嚼指導を中心にご活用頂き、将来的には一般の方がご家庭でも活用できるように拡大していきたいと考えています。これまで多くの専門家の方々に手助けいただき、皆と一緒にここまでこれたことを大変嬉しく思い、是非多くの方々に実際に体験していただきたいと思っています。
ロッテは1948年からガムの製造販売を開始し、噛むことがもたらす可能性を追求し続けてきました。噛むことの重要性が社会に浸透していく中で、咀嚼能力を簡便に評価できるこのガムとアプリは、人生100年時代の一助になるものと考えています。
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人生100年時代において「噛むこと」の重要性が高まっています。キシリトール咀嚼チェックガムと咀嚼チェックアプリにより、これまで以上に多くの歯科医院などでの咀嚼能力評価と咀嚼指導が拡がり、普段から噛むトレーニングを日常生活に取り入れる方が増えていくと考えます。
株式会社ロッテはESG中期目標として噛むことを意識して実践している人の割合(国内)を2028年までに50%以上にすることを掲げております。咀嚼チェックアプリの普及に留まらず、今後も「噛むこと」に関する研究成果の発信や啓発活動などを通じて、日常生活に噛むトレーニングを普及させ、人々の豊かな生活に貢献できるよう取り組んでいきます。