■認知症の父を介護する日々は「想定外」だらけ!
ボケてもやっぱり父は父は父だった!
突然怒り、取り繕い、身近なことを忘れる。変わっていく認知症の父に、60男の著者は戸惑うが、周囲の人の助けも借りて、なんとか新しい環境に向き合っていく。時に父と笑い合いながら、亡くなるまでの日々を過ごす。
「健忘があるから、幸福も希望もあるのだ」という哲学者ニーチェの至言に背中を押されながら。
まるで哲学者のように話す父は、ボケているのか、とぼけているのか?
たとえば、本書では、著者と父親のこのようなやり取りが掲載されています。
【引き算と綱引き?】
「100引く7?」
父は驚いたような表情を浮かべた。
――そう、100引く7。
「100引く7って、こう、引くのか?」
綱引きのような仕草をして父はたずねた。
【野菜で大事なことは?】
――野菜の名前をできるだけ多く言って。
「ほうれん草」
――他には?
「他は菜っ葉」
――菜っ葉にもいろいろあるでしょ。
「いいか。野菜で大事なのは名前じゃない。誰の野菜かってことだよ」
【することないの。。。】
――昨日は何をしていたの?
「なんにもしてない」
――おとといは?
「なんにも」
――明日は?
「なんにもしてない。することないもん」
【コップをめぐる禅問答?】
――これわかる? これは何?
コップを手にして訊いた。
「何って何?」
――いや、訊いているんだよ。
「何を?」
――だから、これは何?
「何って?」
――何って、何?
「何よ」
――だから、これは、何ですか?
「ほんとだ」
自分でも何を訊いているのかわからなくなった。
(本文より抜粋)
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脱力系ノンフィクション作家が、認知症介護のあれやこれやの日々をユーモアいっぱいに、また一方で幻覚、徘徊、脱糞など、シビアな現実もしっかりと描かれています。
いま介護を体験している人、また将来に介護をするであろう人、また介護をされるであろう人、それら多くの人に共感を持って読んでいただける作品です。
■著者紹介:髙橋秀実(たかはし・ひでみね)
1961 年横浜市生まれ。東京外国語大学モンゴル語学科卒業。『ご先祖様はどちら様』で第 10 回小林秀雄賞、『「弱くても勝 てます」開成高校野球部のセオリー』で第 23 回ミズノスポーツライター優秀賞受賞。昨年、『はい、泳げません』が綾瀬はるか/長谷川博己・主演で映画化。近著に『道徳教室 いい人じゃなきゃ ダメですか』。
■書籍データ
【タイトル】『おやじはニーチェ 〜認知症の父と過ごした436日〜』
【著者名】髙橋秀実
【造本】四六判ハードカバー(288ページ)
【定価】1815円(税込)
【発売日】2023年1月25日
【ISBN】978-4-10-473807-6
【URL】https://www.shinchosha.co.jp/book/327523/